古代ローマ史の総復習にはこれ1冊!

初心者向け古代ローマ通史

 古代史ってロマンがありますよね!特に古代ローマは、コロッセオや水道橋をはじめとする巨大遺跡が今でも数多く残っていることから、親しみやすいのではないかと思います。

 しかし、実際にその歴史を網羅するとなると、一筋縄ではいきません。なにしろ、古代ローマの起源と言われる紀元前753年から西ローマ帝国が滅亡した476年に至るまで、約1200年という途方も無い歳月が横たわっていますからね…。

 そんな古代ローマを通史で描いた作品としては、塩野七生さんの『ローマ人の物語』が有名ですが、1冊200ページほどの文庫版にして全43巻ありますから、読破するのはなかなか骨が折れます。。

 もっと簡単に古代ローマ史をおさらいしたい!そんな方にオススメなのが、講談社学術文庫の「興亡の世界史」シリーズから出ている『地中海世界とローマ帝国』(本村凌二著)です。講談社学術文庫は少し難しめな書籍も多いのですが、こちらは比較的読みやすく、「初心者向けの古代ローマ通史」と言えます。

興亡の世界史 地中海世界とローマ帝国 (講談社学術文庫)

興亡の世界史 地中海世界とローマ帝国 (講談社学術文庫)

『地中海世界とローマ帝国』の目次

第1章 前一四六年の地中海世界
第2章 世界帝国の原像を求めて
第3章 イタリアの覇者ローマ S・P・Q・R
第4章 ハンニバルに鍛えられた人々
第5章 地中海の覇者
第6章 帝政ローマの平和
第7章 多神教世界帝国の出現
第8章 混迷と不安の世紀
第9章 一神教世界への大転換
第10章 文明の変貌と帝国の終焉

カエサルら英傑たちが一挙集結

 古代はどうしても史料が限られるため仕方無いのですが、歴史を記述していく上で伝説や伝承に頼ることが少なくありません。本書にも、まことしやかに伝えられてきた「良く出来た話=物語として面白い逸話」が満載されており、「歴史書」というよりも「歴史物語」の範疇に入れざるを得ない部分もあります。ただその分、初めて古代ローマ史に触れる方でも面白く読めますので、取っつきやすいかと思います。

 ローマを苦しめたカルタゴの英雄ハンニバル、その彼に真っ向から挑戦して勝利したスキピオ・アフリカヌス、「賽は投げられた」「来た、見た、勝った」といった名言でお馴染のユリウス・カエサル、ローマ帝国初代皇帝オクタヴィアヌス、暴君ネロ、「ローマの平和」を現出した五賢帝、大浴場で有名なカラカラ帝……興隆と停滞を繰り返しながら紡がれるローマの歴史を、楽しみながら一気に総ざらいすることができます。

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天寿を全うできた皇帝はごくわずか

 本書を読むと、意外な事実を発見できることもありました。

 例えば、驚いたのは皇帝権力の脆弱性です。ローマ帝国の皇帝と言えども、その地位は決して安泰ではなく、天寿を全うできた方は決して多くありません。特に政情が不安定であった軍人皇帝時代など、ほとんどの皇帝が側近や親衛隊などの手にかかっている印象です。

 あろうことか、皇帝という地位が競売にかけられたことすらありました。ローマは常に外敵の脅威に晒されていたため、軍隊を掌握している人間が権力を握りやすい構造となっており、下克上のようなことが日常的に起きていたようです。

 また、大多数の皇帝が対外戦争に時間を取られ、首都ローマに腰を据えていることはむしろ稀でした。裏を返せば、皇帝が不在にも関わらず、帝国の政治機構は滞りなく動いていたということになり、そうしたシステムはかなり精緻にできていたと言えます。元老院を含め、共和政時代より連綿と続く意思決定装置が機能していたと見るべきでしょう。

 その他、本書はローマ帝国滅亡の要因、古代と中世の境界線、キリスト教の迫害・公認・国教化など、古代ローマに関する多くの論点を提供してくれます。

 一方、古代ローマ史に対する知見がそれなりにある方は、少々物足りなく感じるかもしれません。古代ローマ史の中でも、特に興味のある時代やテーマについて深く掘り下げたいならば、それを専門にした別の書籍を読むべきでしょう。広く浅く古代ローマ史をおさらいしたい方にこそ、本書はオススメです。