トヨタ元社長が成長の軌跡を語る
日本人でトヨタの名を知らない方はいないでしょう。社員数約37万人、売上げ約30兆円、時価総額20兆円超。文字通り、日本一の企業と言っても過言ではありません。
しかし、どんな巨大企業にも始まりはあります。今や世界企業となったトヨタはどのようにして誕生し、成長を遂げてきたのか。その軌跡をリアルなエピソードを交えながら紐解いてくれるのが、豊田章一郎氏(1925~)の著書『未来を信じ一歩ずつ』(日本経済新聞出版社)です。
※本書は著者が日本経済新聞の「私の履歴書」に寄稿した際の原稿を加筆・修正し、まとめ直した書籍になります。
- 作者: 豊田章一郎
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2015/07/23
- メディア: 単行本
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豊田という苗字でお分かりかと思いますが、著者の豊田章一郎氏は歴としたトヨタ創業家の1人。現在はトヨタ自動車名誉会長で、トヨタ自動車現社長、豊田章男氏(1956~)の父にあたります。
ちなみに、発明家として名を上げ、豊田自動織機などを設立してトヨタグループの礎を築いた豊田佐吉氏(1867~1930)は彼の祖父、トヨタ自動車を創業した豊田喜一郎氏(1894~1952)は彼の父です。
30万の従業員が双肩にかかる
本書では、祖父佐吉の話に始まり、父喜一郎の自動車開発、そして自身の入社から経営の舵取りを担うまで、最後には経団連や愛知万博など社外における活動についても記してあり、トヨタの歴史と彼らが社会に与えて来た影響を垣間見ることができます。
現在では名実ともに日本一の企業となったトヨタですが、石油ショックやアメリカとの貿易摩擦など、数々の困難を乗り越えて勝ち取った繁栄であることが改めて分かります。
トヨタの肩には30万人以上の従業員とその家族のほか、自動車の部品を製造している下請け・孫請け・曾孫請け企業の進退までが掛かっている。それだけの社会的責任を負っているという緊張感と誇りが、文中からは伝わってきました。
EVの部品点数はガソリン車の10分の1
現在、自動車業界にはいくつもの大きな波が押し寄せています。
1つ目は、電気自動車です。ガソリン車の部品点数は全体で10万点とも言われ、エンジンに関わる部品だけでも2~3万点に上ります。一方、電気自動車は合計1万点ほどの部品で済むため、ガソリン車の実に10分の1で済んでしまう。複雑な燃焼機関が不要で、電池と制御装置があれば動きますから、当然の帰結かもしれません。
こうなると、トヨタのように膨大な「ケイレツ」を抱える巨大企業よりも、小回りの利くベンチャー企業の方が動きやすいのは間違いありません。アメリカのテスラモーターズなどは好例でしょう。彼らはiPhoneを作るように、国籍を問わず優秀なメーカーから必要な部品を購入し、それらを組み合わせて自動車を製造しています。
膨大な量の高品質な部品をグループ会社や系列企業から大量に購入することで成立しているガソリン車中心の産業構造が、電気自動車の登場で破壊されるのではないかと考えられているのはこのためです。
カーシェアリングが急伸
2つ目は、最近勢い良く台数を伸ばしているカーシェアリングです。レンタカーと違って24時間いつでも借りられますし、店員など人を介さず駐車場で勝手に借りて時間内に返すスタイルなので、非常に便利です。
少なくとも僕の友人の中には、東京圏内に住む20代男女で自前の車を所有したいと考えている人はほとんどいません。これは、車を持つ目的について、「ステータス」と考える人が少なくなったからでしょう。感覚値ですが、車や家などを「所有」することに価値を見出しているのは40~50代以上の世代が多いように思います。今後、所有自体に価値を見出す層はどんどん減るのではないでしょうか。
車は移動手段でしかない
デフレ時代に育ったからか、性格かは分かりませんが、僕は極力お金を使いたくはありません。自動車を持つと、初期費用としてお金がかかるばかりか、駐車場代、ガソリン代(もしくは電気代)、車検費用と、下手をすれば家賃並みのお金がかかります。それだけの投資をして、乗るのは一カ月に一体何時間なのか。そう考えると、買う気にはならないというのが正直な気持ちです。
例えば将来的に家族ができて、毎日自動車を使う機会が生じたり、利便性がコストを上回れば、車の購入を考えるかもしれません。また、いきなり地方勤務となり、自身の車が無ければ仕事に支障が出る場合もしかりです。ただし、その根底にはやはり、「自動車の本分はあくまで移動手段」という考えがあります。
「自分で運転する」のは趣味になる
3つ目は自動運転。流石にまだ遠い先でしょうが、いつの日か、ほぼ全ての車が自動運転になるかもしれません。現在オートマ車が主流となり、マニュアル車を運転するのが趣味と化したように、自動運転が普及すれば「自分の手で運転する」こと自体が趣味になるでしょう。自動車事故はこの世から消え、ハリウッド映画でお馴染のカーチェイスシーンは時代錯誤になるかもしれません。
そこまで行くには相当な時間がかかりそうですが、現に今でも自動ブレーキなどといった自動運転の技術は徐々に取り入れられています。また、完全自動運転に向けての試みも、様々な企業が進めているところです。
自動運転と地方の親和性は高い
基本的に、取得すべき情報が膨大だと自動運転は難しい。ならば、あまり車も人もおらず、信号も無い地方の道路は、自動運転と親和性が高いのではないでしょうか。
過疎地域の話を聞くと、タクシー会社が隣町にしかなく、呼んだだけで法外なお金がかかるような場合もあるようです。お年寄りなど、「運転は難しいが、バスも頻繁には来ず、しかし買い物には行かなければならない」というニーズを抱えた人が多い地域にこそ、ロボットタクシーは必要でしょう。
むしろ、都会ならばタクシーはビュンビュン来ますし、公共交通網も発達している。しかも、人も車も多くて道も複雑となれば、自動運転には適しません。まずは都会では無く、地方にこそ自動運転を普及させ、そちらで実験してみるのが良いと思います。
そうして徐々に自動運転の精度が高まれば、最終的には、近くを走っている自動運転車をスマホアプリで呼び出し、行きたい所まで運んでもらうことが可能な時代が訪れるでしょう。そうなると、運転免許制度や自動車保険という概念まで変容することになりそうですね。
さて、こうした変化の中で自動車製造各社はどのように振舞うのでしょうか。カーシェアリングや自動運転などがさらに普及しても、マーケットがB2CからB2Bに変わっただけだと考えるのか。新たなサービスを自ら作って行くのか。はたまた、自動車の販売台数自体が頭打ちの日本から飛び出し、より広く海外へ打って出るのか。今後の各社の動向に注目です。