短篇好きなら1度は読んでおきたいモーパッサン15篇

300以上の短篇から15作品を厳選

 短篇を手掛けている作家は数多くおりますが、中でも特にオススメしたいのが、「短篇の名手」と言われるフランス人作家ギ・ド・モーパッサン(1850~1893)の作品です。

 岩波文庫から『モーパッサン短篇選』が出ておりますので、まずはこちらを読まれると良いでしょう。本書では、モーパッサンが生涯で書いた300以上もの短篇の中から、編集者が厳選した15作品がまとめられています。

モーパッサン短篇選 (岩波文庫)

モーパッサン短篇選 (岩波文庫)

『モーパッサン短篇選』の収録作品

水の上(1876)
シモンのパパ(1879)
椅子直しの女(1882)
田園秘話(1882)
メヌエット(1882)
二人の友(1883)
旅路(1883)
ジュール伯父さん(1883)
初雪(1883)
首飾り(1884)
ソヴァージュばあさん(1884)
帰郷(1884)
マドモワゼル・ペルル(1886)
山の宿(1886)
小作人(1886)

真実を客観的に描く自然主義作家

 モーパッサンと言うと、長篇小説『女の一生』の名で記憶されている方もいるでしょう。文学史的な位置付けでは、作者の主観を排除してありのままの真実を客観的に描こうとする「自然主義」の流れを組んでいます。

 自然主義の作家としてはエミール・ゾラ(1840~1902)ギュスターヴ・フロベール(1821~1880)が有名ですね。

 現実に即した執筆が心掛けられていることから、作中では基本的に彼の生きた時代(1870~90年頃)が描かれていますが、愛する家族を失った悲哀や自己顕示欲など、100年以上を経た現代にも十分通じる心理描写がなされています。人間の本質が古来より変わらないことを改めて認識させられる作品です。

 主題としては純愛、家族愛、私生児、精神錯乱など様々あり、普仏戦争(1870~71)を大衆の側から描くことで、反戦への思いを鮮明にした作品も2つ含まれておりました。

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静的な雰囲気ながら展開には意外性も

 風景の描写などでは擬人法や比喩が頻繁に使われており、胸を打つような表現もありました。ただ、「AのようなB」と書いた場合、対象物であるBからAを連想している存在として著者自身の思考がどうしても現れてしまいますので、自然主義にしては主観が入っているとも言えます。

 全体を通しては、どこかもの静かで感傷的な作風でした。それは、19世紀フランスがそうした世相であったためか、最終的には精神錯乱を起こして亡くなるモーパッサンの人間性が現れたものなのかは分かりません。

 それでも、決して単調というわけではなく、むしろ静謐な物語ながら意外性に富んでいます。この後に一体どうなるのか、先を知りたくなるような展開も見物で、どの篇も内容まで含めてとても印象に残ります。

 短篇は、限られた文章の中で表現せねばならないため、ある意味で難しいとも言えます。しかし、モーパッサンの作品では短い中に様々な思いが凝縮されており、流石に「短篇の名手」と呼ばれるだけのことはあるでしょう。短篇好きなら、1度は読んでおいて損は無いと思います。