マネジメント層必読!ユリウス・カエサル『ガリア戦記』

ビジネスリーダーが推薦する名著

 古代ローマの政治家、将軍であり、帝政ローマの事実上の創始者とも言えるユリウス・カエサル(B.C.100~B.C.44)。「賽は投げられた」「来た、見た、勝った」「ブルートゥス、お前もか」など数多くの名言を残したことでも有名ですね。

 彼は独裁官としてローマの実権を握るも、ブルートゥスらに命を奪われ、跡を継いだ養子のオクタヴィアヌス(B.C.63~14)が、最終的にローマ帝国初代皇帝として帝政を敷くこととなります。

 今回は、そんなカエサルの書いた『ガリア戦記』(岩波文庫)を紹介しましょう。こちらは、各業界を牽引するトップの中でも読書家として知られる22人が選んだ「ビジネスリーダーが薦める岩波文庫」に収録されている名作です。

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)

明快・簡潔な文体が特徴

 さて、『ガリア戦記』は、カエサルが共和政ローマの軍団を率いてガリア(現在のフランス)を平定した際の戦いを綴ったものです。元々元老院への報告書として捧げられた本書は、7年に渡る激闘が7章構成で描かれており、名文の誉めれが高いことから今日まで伝わっています。

 報告書の性質上、あくまで事実ベースで書かれており、出来事が淡々と明快・簡潔に語られているのが特徴です。また、自身のことを「カエサルは云々」と三人称で描いている点も特筆すべきでしょう。

 まず、ガリアにはどのような部族が割拠していたのかが説明され、その中で「どの人々が、いかなる理由で、どのように動き、戦争に至ったのか」が端的に述べられています。

 もちろん、戦争が勃発した後の事柄も、カエサルがとった行動について事細かに記してありますが、その動きの全てにおいて明確な理由が書かれています。

情報収集と合理的判断で勝つ

 読むにつれて、その優れた政治的、軍事的な洞察力に感服せざるを得ませんでした。彼の判断基準を見ていると、まさに兵法書『孫子』に書いてあるようなことばかり。「彼を知り己を知れば百戦危うからず」と言いますが、まさに、頻繁に斥候を出して敵情を把握し、自軍の部隊の進捗を頭に入れ、その上で「ここぞ」という時に攻撃と撤退をしていることが分かります。

 戦争をする際には兵站が重要となるのは世界共通ですが、敵に地の利がある侵攻側の場合は特にこれを切られないように注意を払う必要があります。そうした理由から、カエサルは情報を非常に大切にし、敵の陰謀や策略にも予め気付くことが多かったようです。明確な証拠を掴めずとも、諸々の因子から判断して起こり得る事態を想定し、手を打っていたように思います。

 このため、カエサルの行動を見ていると、必ずしも軍事的な天才ではないように感じました。あくまで頭脳明晰な指揮官として、収集した情報を元に合理的な判断を下し、当たり前のことを当たり前にこなしているという印象です。もちろん、それが常人には難しいため、多くの失策が行われるわけですが…。

効率より人間的情緒を優先することも

 ただし、全ての判断において短絡的な効率のみを優先させるかと言うと、そうでもありません。カエサルは過去にローマとガリアの間で行われてきた戦いの歴史を把握しているのはもちろん、その土地の風土や習慣について深い知識を有していました。現地人の価値観に照らし合わせて、どのような行動をとると相手が喜ぶか、もしくは怒るか、全て理解していたようです。

 そのため、相手の気持ちを察して、効率のみ考えれば非合理的な行動をとることもしばしばありました。味方に付けた部族が苦境の時は、「勝ち得た信頼を裏切るくらいならば、困難に耐える方が良い」と述べ、味方にも損害が出る覚悟で出撃しますし、例え危険であっても、重要と思われる交渉や戦闘には、必ず自分自身で赴くのがカエサル流です。

部下の心を掴むカリスマ性は天下一品

 戦争における細かな部隊の動かし方については、優秀な指揮官ならば彼と同じことができたかもしれません。しかし、やはり部下の心を掴むカリスマ性に関しては、カエサルが天才的な能力を持っていたようです。

 何しろ、彼のいない現場でも「カエサルが見ていると思え」と聞けば、その部隊は士気を大いに向上させて奮戦しましたし、「カエサルの援軍がそこまで来ている」と知れば、苦しい籠城戦でも兵士たちは持ちこたえたと言いますからね。

f:id:eichan99418:20190411145117j:plain

 カエサルは裏切った部族を何回も許すなど、基本的には寛容な態度を崩しませんでしたが、相手が敵味方に関わらず、飴と鞭を使い分けるのが非常に上手いと思いました。

 例えば、カエサルの出した撤退の命令を聞かずに敵の罠にはまった部隊があった際には、当然その隊の上司を叱り飛ばすのですが、同時に「今の戦は敵の計略によるもので、君らの武勇が劣っていたせいではない。次は必ず勝利が得られるから、気落ちせずに奮戦せよ」と、最後は誉めて部下たちの士気を保つのも忘れません。

 このように演説して部下を叱咤激励する場面は本作の中にしばしば登場しますが、どれも説得力があり、気休めとは取られずに士気の向上に繋がったことが目に見えるようでした。

 カエサルは部隊を分けて副将に任せることも頻繁に行っていますが、最終的には各指揮官が自分の指示を仰がずとも自らの判断で動ける組織を目指していたようです。

 それでこそ、刻々と変化する状況の中でも臨機応変に戦えるというもの。現代のマネジメントにも通じる部分があるでしょう。『ガリア戦記』が「ビジネスリーダーが薦める岩波文庫」の中に入っているのも頷けます。