英国の新紙幣に採用!AIの父アラン・チューリングを描いた1作

ナチス・ドイツのエニグマ暗号を看破

 ボリス・ジョンソン(1964~)の新首相就任、改めてのEU離脱宣言と、政局が大きく揺れ動いているイギリス。そんな中、同国では他方面でも大きなニュースがありました。

 イングランド銀行が7月15日(英国時間)、50ポンド紙幣の新しい絵柄として、アラン・チューリング(1912~1954)を採用すると発表したのです。2021年までには発行が開始される予定と言います。

 チューリングは20世紀前半を生きた数学者で、「コンピュータの父」「人工知能の父」などと呼ばれています。約1000人いたという候補者の中から彼が選ばれた背景としては、現代社会に多大な影響を与えているコンピュータ、そしてAIの先駆的存在であったことが大きいでしょう。

 彼の業績の中でも有名なのは、第2次世界大戦(1939~1945)におけるナチス・ドイツの暗号解読です。チューリングはドイツの誇る暗号機「エニグマ」の暗号を看破したことで、戦局の好転に大きく貢献しました。

アラン・チューリングの半生を描く

 そんなチューリングの半生を描いた映画が、ベネディクト・カンバーバッチ主演の『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)です。イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(字幕版)

 この映画で描かれる第1の要素は、当然ながらナチス・ドイツとの戦い。「エニグマ」は元々「謎」という意味で、その名の通り解読は難航を極めました。ドイツ側は1日1回設定を変えてくるため、傍受した暗号の解読にかけられる時間はわずか。しかも、解読してもそれを戦略に生かせなければ無意味ですので、実用レベルとなると制限時間はさらに短くなります。

 解読チームは、昼夜必死でエニグマの暗号と向き合い続け、1日中かけた解読作業が徒労であったことを知らせるベルと共に帰途に就くという、やるせない日々を送ることとなったのです。

 この厳しい状況下で、チューリングは当初より、エニグマの解読が「人力」では不可能であると悟っていました。彼は協調性そっちのけで、エニグマを解読するための機械製造に取り組みます。

 もちろん、こうしたチューリングの態度にチームの面々は反発しますが、紆余曲折を経て、お互いに認め合う関係となり、最終的には暗号解読装置「Bombe」を開発。ドイツ側の部隊配置や艦船の進路など、重要情報を手に入れることに成功したのです。

同性愛者としての苦悩と復権

 本作品のもう1つのテーマとして描かれるのは、チューリングの同性愛者としての苦悩です。彼には学生時代からそうした傾向が見られ、1952年には同性愛の罪で逮捕されます

 化学的去勢(ホルモン療法)を受けるか、刑務所での服役かの二者択一を迫られたチューリングは、仕事を続けるために前者を受け入れますが、その2年後に青酸カリ中毒で死去。一般的には自殺とされており、近年ではこれに対して懐疑的な見方も出ていますが、彼が身体的・精神的に追い詰められていたことは確かです。

 21世紀を迎えると、ようやくチューリングを擁護する動きが盛んになりました。2009年には、当時イギリスの首相であったゴードン・ブラウン(1951~)が、政府によるチューリングの扱いに対して正式な謝罪を表明。2013年には死後恩赦が認められました。そして、今回の新紙幣採用へと繋がるわけですね。

 今回紹介した『イミテーション・ゲーム』の制作と公開も、こうしたチューリング復権の流れの1つと見ることができるでしょう。

『イミテーション・ゲーム』まとめ

・監督
モルテン・ティルドゥム

・主な出演者
ベネディクト・カンバーバッチ
キーラ・ナイトレイ
マシュー・グッド
ロリー・キニア
チャールズ・ダンス
マーク・ストロング

・公開年
2014年

・受賞
第87回アカデミー賞(脚色賞)

・見どころ
ナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」との戦い
バラバラだった暗号解読チームの団結
チューリングの同性愛者としての苦悩