スティーヴン・キング原作!SFホラー映画『ミスト』バッドエンドの理由

「ホラーの帝王」によるSF作品

 世界的に有名なホラー小説家、スティーヴン・キング(1947~)。その著作の多くが映画化・ドラマ化されており、小説を読んだことのない方でも、何かしらの映像作品には触れたことがあるかと思います。

 ホラー作品としてよく知られているのは、『シャイニング』『キャリー』でしょうか。前者は伝説的な映画監督スタンリー・キューブリック(1928~1999)がメガホンを取ったことでも名高く、名優ジャック・ニコルソン(1937~)が主演しています。後者は元々1976年の映画ですが、2013年にクロエ・グレース・モレッツ(1997~)の主演でリメイクされました。

 スティーヴン・キングは「ホラーの帝王」と呼ばれる一方、『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』といった心温まる作品も手掛けており、どれも第一級の評価を受けています。

 今回は、そんなスティーヴン・キング原作の映画『ミスト』を紹介します。ジャンルとしては「SFホラー」に当たりますが、本作は単なるホラー映画、パニック映画の域を超えており、作品自体に強いメッセージ性があります。ミスト (字幕版)

 この先、多少のネタバレを含みますが、大まかな概要のみですので、ご安心ください。お時間のない方は「まとめ」だけでもどうぞ!

霧の中に正体不明の「何か」が…

 舞台はアメリカのとある田舎町。主人公がスーパーマーケットで買い物をしていると、突如として辺りが霧に包まれます。その中には、正体不明の「何か」がおり、大怪我をした人が命からがら逃げ込んできたり、外に出ていった人がそのまま失踪したりします。

 詳しい事情が分かるまでスーパーに立て籠もることにした主人公たちですが、現状を打開するための対策などを巡って人々の意見は対立。本来ならば一致団結せねばならない状況にも関わらず、緊急事態を前にして疑心暗鬼に陥る者、狂信に走る者まで出てきて、仲間同士の争いが起こります。

 ネタバレを避けるため、内容はここで止めておきましょう。本作ではホラー要素よりも、こうした「人間の醜さ」が中心に描かれていますが、それですらこの作品の本質ではないように感じます。

 では、この映画における最も重要なポイントとは何か。少し遠回りになりますが、順を追って説明します。

あえてバッドエンドにする意味とは?

 小説や映画において、何らかのメッセージを伝える方法はいくつかあります。例えば、「何かを成し遂げるためには、不屈の闘志を持って戦い続けなければならない」ということを伝えたいとしましょう。その場合、作者はどのような手法を取るでしょうか。

①登場人物に言わせる
 最も簡単なのは、登場人物に「不屈の闘志を持て」というセリフを言わせる手法です。登場人物の中でも、特に主人公自身や、主人公に対する影響力の大きい師匠、親友、仲間といった格の人物に、伝えたいメッセージを放たせ、それをきっかけに物語を良い方向へと進めます。

 1990年代にバスケブームを巻き起こした『SLAMDUNK』において、湘北高校バスケットボール部監督の安西先生が言った「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」というセリフは、まさにこれを体現しています。

出典:『SLAMDUNK』コミックス27巻より

 基本的に読者や視聴者は、物語の主人公に感情移入して作品を楽しむものですので、その本人や近しい人間のセリフとなると、心に響きやすいでしょう。

②不屈の闘志によって物語の展望を開く
 また、1つ目と似ていますが、主人公が不屈の闘志を失わなかったことによって物事が上手く運び、良い結果がもたらされるというストーリー展開にする手法も有効です。

 この場合、あえて誰かに「不屈の闘志を持つべきだ」というセリフを言わせることはしません。それではあまりに直接的すぎて、かえって「臭い芝居」のように感じられてしまう可能性があるからです。あくまで主人公が闘志を燃やす「姿勢」を描き、それによって展望が開ける様子を読者や視聴者に示すことで、やや間接的にメッセージを伝えます。

 まさにスティーヴン・キング原作の映画『ショーシャンクの空に』では、ティム・ロビンス(1958~)演じる主人公が「不屈の闘志」を背中で見せました。また、それまで「無冠の帝王」であったレオナルド・ディカプリオ(1974~)が初のアカデミー主演男優賞に輝いた『レヴェナント:蘇えりし者』も、この系統の映画でしょう。

③不屈の闘志を失ったことで敗北させる
 実は、①や②とは正反対の方法でも、「不屈の闘志を持つべきだ」というメッセージを伝えることはできます。具体的には「不屈の闘志を失った主人公が敗北を喫する」というストーリーにすれば良いのです。

 物語に入り込んでいるほど、読者や視聴者はバッドエンドを望みません。最終的に主人公が敗北するとなると、当然ながら後味は悪いものになります。

 ただ、その敗北を引き起こした原因が「主人公が闘志を失ったから」ということになると、読者や視聴者の心には自然と「なぜあそこで闘志を失ったんだ!」「もう少し頑張れば良かったのに!」という憤りにも近い感情が芽生えるのではないでしょうか。

 それこそ、この手法の狙いです。そして、この描き方をすれば、おそらく①や②よりもかなり強烈なインパクトをもって、「闘志を失ってはいけない」というメッセージを読者や視聴者にぶつけることができると思います。

まさしく「衝撃のラスト15分」

 今回紹介した『ミスト』は、まさにこの③のパターンに当てはまります。ネタバレになるので、本作が放つメッセージの内容は明かしませんが、その伝え方が非常に秀逸であることは間違いないでしょう。「衝撃のラスト15分」というキャッチコピーは伊達ではありません。

 ここまでの話の流れでお分かりかと思いますが、本作は言わば「後味の悪い映画」です。しかし、描き方によっては「ただ不快なだけのパニック映画」と化してしまう可能性も大きい③の手法をとりながら、多くの人の心を動かしているわけですから、やはり傑作と呼ぶべきでしょう。「バッドエンドだからこそ、この作品は素晴らしい」と言っても過言ではないと思います。ハッピーエンドが好きな方でも、一度観ておいて損はしません。

 それにしても、前向きかつハッピーエンドの『ショーシャンクの空に』と同じ原作者&監督がタッグを組んで本作を作っているというのが興味深いところです。才能豊かなストーリーテラーは、さじ加減一つで②と③、両パターンの物語を自在に描けるのでしょう。

『ミスト』まとめ

・監督
フランク・ダラボン

・原作
スティーヴン・キング

・主な出演者
トーマス・ジェーン
マーシャ・ゲイ・ハーデン
ローリー・ホールデン
トビー・ジョーンズ

・公開年
2007年

・見どころ
何が起こるか分からないミステリー要素
「人間の醜さ」が徐々に露わになる様子をリアルに描写
衝撃のラストシーン
メッセージ性の高さと、その伝え方の秀逸さ