南米周遊記 第1章・南米到達編(1)/伊東という男

 今回、2012年2月7日~3月12日にかけての南米周遊旅行を描くコーナーを立ち上げました。この旅で訪れた南米諸国は、ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビア、ペルーの6カ国。それぞれの国における印象的な出来事について紹介していきます。

 本コーナーは旅行記をベースに編集しており、「観光名所の紹介」や「ツアーの案内」といった“ノウハウ系”の記事ではありません。ただ、これほど頻繁に“不測の事態”に遭遇した旅はなく、その予想外の展開から、1つの物語として楽しんでいただけるかと存じます。よろしければ、読んでいってください。

卒業旅行の行先として南米を選んだ理由

 2012年、立春。大学4年生だった僕は、卒業のために必要な単位数を取得し、卒業論文の提出も無事終えて、心を躍らせていました。“人生のモラトリアム”と呼ばれる大学時代の、最後の休暇が始まったのです。

 もちろん、無為に過ごすつもりはありませんでした。学生時代、休みさえあれば旅に出ていた僕は、この数カ月前から「学生生活を締め括る長期休暇を利用して海外へ行こう」と考えていました。もっとも、たとえ旅好きでなくとも、この時期に卒業旅行を計画していた人は多かったことでしょう。

 では、約2カ月ある休暇の中で、どこを訪れるか。僕はそれまでに、北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアには何度か足を運んでいましたので、候補から除外しました。また、アジア圏であれば、社会人になってからでも、連休を使って行けないことはないだろうと考えました。

 中東には一度も行ったことがなかったため、興味をそそられましたが、当時は「アラブの春」の騒乱が続いており、治安悪化の観点から、流石に渡航を躊躇せざるを得ない状況でした。

 そうしたことを全て勘案すると、目的地は南米かアフリカに絞られました。そんな折、高校時代の親友である伊東という男から「一緒に南米に行かないか」との誘いを受けたのです。この話に乗らない手はありません。ここぞとばかり、僕は快諾しました。

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 ご存じの通り、南米大陸は地球上で日本の裏側に位置しています。最短経路は、アメリカのサンフランシスコやヒューストンまで飛び、そこから南下するルートですが、当然ながら航空券代が高くつきました。

 学生という身分で、極力お金を節約せねばならない以上、乗り継ぎの多い格安航空券に頼らざるを得ません。そうなると、日本と南米を往復する移動時間だけでも、合計4日はかかります。ただ、ここで僕は「裏を返すと、時間をかけなければ行くことのできない南米こそ、学生時代最後の長期休暇を利用して訪れるに相応しい場所だ」との考えに至ったのです。

中東やチベットも訪れた無類の“旅好き”

 ここで少し、僕を南米旅行へと誘った伊東について触れておきましょう。先ほど僕は、彼について「高校時代の親友」と述べました。しかし、彼との間にはそれ以上に深い縁があります。

 中高一貫校出身の僕たちは、中学1年の時からの同期であり、そればかりか、学部こそ違えど同じ大学に進学した仲でした。さらに、同じサークルにまで入ることとなったため、2012年の時点で10年の付き合いとなっていました。

 伊東は大学時代、僕と共に入ったサークルとは別に、世界旅行を推進するサークルにも所属。副幹事を務めるまでになっていました。彼が旅した国は、その当時で既に計24カ国に及んでいたと記憶しています。

 特に、大学において研究対象としていた中東諸国を好んで旅し、シリア、イラン、ヨルダン、レバノンといったアラブ地域の国々をたびたび訪れていました。社会人になってからも、チベットをはじめ、あまり人が訪れないような地に足を運んでいる無類の“旅好き”です。

ボリビアのウユニ塩湖で分かれる

 僕たちの立てた算段は、共に南米へと渡り、途中まで一緒に彼の地を巡った後、二手に分かれて、各々の行きたい場所へ向かうというものでした。

 僕は、南米に足を踏み入れるからには、是非ともペルーにある「空中都市」マチュピチュを見てみたいと思っていました。かたや伊東は、アルゼンチンを南下し、南米の最南端にあって「世界の果て」と称されるウシュアイアまで行きたいという願望を抱いていました。あわよくば、そこから南極へと足を伸ばす計画だったそうです。

 まだLINEが普及していなかった当時、僕らはSkypeの無料通話にて話し合いを重ね、具体的な旅程を練りました。そして、ベネズエラ、ブラジル、パラグアイまでは行動を共にし、絶景スポットとして有名なボリビアのウユニ塩湖で分かれて、僕は北、伊東は南へと進路を取ることになりました。結果的に、そう上手くは運ばないのですが、それはまた後でご紹介しましょう。

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 今回は、伊東という男の説明に多くを割きましたが、これは意義のあることでした。彼なくして、この南米旅行は始まりませんでしたし、旅の前半2週間強を共に過ごし、この旅行記に頻繁に登場する人物について、最初に触れておく必要があったからです。

 僕は言わば、彼の主導の下、南米への渡航準備を整えていきます。次回は、その詳細について描こうと思います。

次回へつづく)

※「南米周遊記」は、2012年2月7日~3月12日にかけての南米旅行を題材とした記事です。